連日新型コロナウイルスのニュースや患者が出ています。
新型コロナウイルス以外にもインフルエンザウイルス、ノロウイルスなど様々なウイルスがいます。
人に害悪を与えるウイルスもいれば、動物にしか悪影響を与えないウイルスもいます。
ウイルスの種類は多く、ヒトに感染するウイルスだけでも山ほどいます。
医師や看護師、薬剤師、臨床検査技師など生物学を勉強してきた人であれば、ウイルスについてある程度知っていると思います。
理学部や理工学部の大学では生物について学びます。
人によっては大学でウイルスについて研究している人もいますので、そちらの人達の方が詳しいです。
ウイルスよりも少し大きいのが細菌です。
世間一般では、ウイルスと細菌の違いについてわからない人が多いです。
ウイルスと細菌は全く異なった生物ですので、気を付けて下さい。
前置きが長くなりましたが、今回はウイルスについて書いていきます。
今回の記事内容
- 生物の定義からウイルスが生物と考えるのは難しい
- ウイルスの基本的構造
- ウイルスの増殖方法
- ウイルスの種類によって増殖する細胞が決まっている
- ウイルスの予防方法
目次
ウイルスは構造的に生物と考えるのは難しい
長年ウイルスは生物であるかどうかが議論されています。
そのために生物の定義とウイルスの構造を考えなければいけません。
生物の定義
生物の定義
- 自己複製を作ることができる
- 代謝(エネルギーの流れ)をすることができる
- 外界と膜で区別することができる
自己複製は細胞分裂の際に自分と同じDNAを作ることができることを指します。
言わば、自分と同じクローンとなる細胞を作りだせれば良いのです。
また、生殖においても自分と同じ遺伝情報が引き継がれている必要があります。
代謝はATPを産生したり、消費することでエネルギーを獲得することを指します。
細胞内には自らエネルギーを産生することができるミトコンドリアなどがあります。
つまり、自分で自給自足ができるということです。
外界と膜で区別できなければ、どこからが生物(細胞)であるかの境界線を引くことができませbん。
自分が自分であるためにはどこかで境界線を引く必要があります。
細胞で言えば、細胞膜が外界と区別するための物質です。
ウイルスの構造
ウイルスの構造
ウイルスの構造は核酸(DNAまたはRNA)と核酸を取り囲むカプシド(タンパクの殻)から成り立っています。
ウイルスの核酸とカプシドを合わせてヌクレオカプシドと呼びます。
ウイルスは核酸とカプシドしかないので、生物の定義に当てはまりません。
自分で複製することができず、代謝もすることができず、外界と区別することすらできません。
ではウイルスはどのようにして増殖しているのしょうか?
実は、宿主となる細胞に感染(寄生)して増殖します。
ウイルスが増殖するには宿主細胞が必要
ウイルスはウイルス自身で増殖することができず、宿主細胞がいなければ増殖できません。
宿主細胞を利用して、ウイルスを増殖させます。
ウイルスは宿主細胞に吸着→脱殻→複製・合成→放出の順で増殖していきます。
下にウイルスが増殖する仕方の図を載せておきました。
文字にして書くよりも図で見た方がわかりやすいです。
引用:『わかる! 身につく! 病原体・感染・免疫』 南山堂より
エンベロープとはヌクレオカプシドの外側にある宿主細胞由来の膜です。
ウイルスによってエンベロープが有ったり無かったりします。
ポイント
ウイルスは宿主細胞を利用して増殖する
吸着→脱殻→複製・合成→放出の順で増殖していく
ウイルスの複製は正確でない
ウイルスは自分で増殖することはできず、宿主の細胞を利用して増殖します。
DNAウイルスとRNAウイルスに分類することができますが、複製、増殖する上で違いはあまりありません。
しかし、ウイルスの複製精度はヒトと比較して低く、複製する過程で変異が起こることがあります。
特にRNAウイルスでは複製での変異が起こりやすく、発生率が高いです。
インフルエンザウイルスはRNAウイルスであるため、変異が起こりやすいです。
毎年流行するインフルエンザウイルスの型が異なります。
インフルエンザウイルスのワクチンは流行しそうな型を予想して作られています。
1番最初にヒトに感染した親ウイルス(野生株)が変異して異なる変異ウイルス(変異株)になることは普通にあります。
変異することによってヒトに感染しやすくなることがあります。
新型コロナウイルスはRNAウイルスであり、変異しやすいです。
新型コロナウイルスが最初に出現した際の型と現在流行している型が異なるのは上記の通りです。
ポイント
- ウイルスの複製精度は低く、変異が起こりやすい
- 特にRNAウイルスは変異の発生率が高い
ウイルスは感染する細胞が決まっている
ウイルスが人や動物に感染した場合、
- 体中の全ての細胞に感染するウイルス
- 特定の臓器や組織のみ感染するウイルス
がいます。
全身に感染するウイルスは水痘・帯状疱疹ウイルス(水疱瘡のウイルス)のように全身に症状が出ます。
この他に麻疹ウイルス(はしか)や風疹ウイルスなどもいます。
肺や肝臓など特定の臓器や組織に感染するウイルスはそこの部位でしか増殖できません。
ウイルスの種類によって臓器や組織に対して親和性があります。
インフルエンザウイルスは呼吸器の細胞に感染し、ノロウイルスは腸に感染します。
症状も感染する部位によって異なります。
新型コロナウイルスは呼吸器の症状が著名なので、呼吸器系の細胞に感染するウイルスであることがわかります。
ウイルスの検査は抗原、抗体、PCRの3つ
ウイルスは細胞から離れてしまうと生きていくことができません。
ウイルスが死滅してしまっては正確な検査ができなくなってしまうので、なるべく早く検査します。
抗原検査と抗体検査
ウイルスは抗原を持っているので、血中で抗原が検出されれば、ウイルスに感染していることがわかります。
患者さんがウイルスの治療をしていると、体の中で抗体ができます。
抗体は2回目に同じウイルスに感染した際に症状が軽かったり、直ぐに治ったりするタンパク質です。
そのため抗体は死ぬまで一生つくられます。
ウイルスの抗体が検出されることは患者さんがウイルスに感染しているもしくは過去に感染していたことになります。
ポイント
抗原はウイルスの感染初期~感染中期
抗体はウイルスの感染の中~後期もしくは過去に感染していた
PCR検査
PCR:polymerase chain reaction (ポリメラーゼ連鎖反応)
PCRはある特定の遺伝子を増幅させて解析するために開発された技術です。
連日PCRという言葉を耳にしますが、新型コロナウイルスのための検査ではなく、前々からあった検査です。
ウイルスは遺伝子とタンパク質しかないので、検査するが難しいです。
患者さんの検体から一部の遺伝子を増幅させて、ウイルスの遺伝子と一致する部分を探します。
ウイルスの遺伝子と一致すれば、感染していることがわかります。
PCR検査の欠点として、体内の死んだウイルスも検査してしまうことがあります。
患者さんに発熱など何らかのウイルスを疑うような症状が出ているのであれば、検査する意味があります。
しかし、闇雲に検査しても症状が落ち着いてしまえば、ウイルスに感染していないことになります。
ポイント
PCR検査はウイルス遺伝子の一部を検出する検査
死んだウイルスの遺伝子も検出してしまうデメリットがある
外気中のウイルスは弱く、簡単に消毒できる
注意ポイント
ここで書く内容は呼吸器のウイルスがメインです。
肝炎ウイルスやノロウイルスのような血液や粘膜系に感染するウイルスは効果がありませんので、ご了承下さい。
ウイルスは宿主細胞がいなければ生きていくことができません。
呼吸器系のウイルスにおいてクシャミや咳をした場合、ウイルスはどうなるでしょう?
答えは、クシャミや咳で空気中に出たウイルスはあまり長生きしません。
空気中や床、壁などに存在するウイルスの生存期間は半日生きていれば良いです。
呼吸器系のウイルスは空気感染や飛沫感染などで感染しますが、大量のウイルスを体の中に入れない限り発症することはありません。
参考
肝炎ウイルスなどは呼吸器系の症状ではないので、空気感染などはしません。
医師や看護師で針刺し事故をした場合に肝炎ウイルスに感染していまうことがあります。
呼吸器系のウイルスはアルコールなどの消毒で簡単に除去できます。
もし、ウイルスに感染している人と接触してしまったら、手洗いやうがいをすれば問題ありません。
新型コロナウイルスは呼吸器系のウイルスなので、うがいをよくすれば問題ないと思います。
うがい薬でうがいをすれば喉に存在するウイルス量は減りますので、効果があります。
肺や気道まで入り込んでしまった場合はうがいをしても意味がありません。
ポイント
- ウイルスは外気中では弱い
- アルコール消毒などで除去することができる
清潔な環境は本来予防していたウイルスとは違うウイルスに感染してしまう
アルコールなどの消毒で呼吸器系のウイルスは除去できると書きましたが、全ての物を消毒しようと考えない方が良いです。
部屋を清潔に保つことは大切ですが、細菌やウイルスがほとんどいないような環境を素人が作るのは難しいです。
過度に部屋を綺麗にし過ぎると逆に他の細菌やウイルスによって病気を発症してしまいます。
手洗いをし過ぎで手が荒れてしまい、手荒れでできた傷口から他の細菌が感染していますこともあります。
インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスを予防することは大事です。
しかし、過度な予防や清潔は他の細菌感染やウイルス感染を引き起こしてしまいます。
適度な予防や清潔感が必要です。
呼吸器系のウイルスは換気で空気の流れを作るのが大事
仮に、インフルエンザウイルスに感染した人がクシャや咳をした場合、そこにいる人全員が感染するでしょうか?
答えはケースバイケースです。
ウイルスを大量に吸い込めば感染しますが、少量であれば感染しないこともあります。
感染するかどうかは人によって異なります。
クシャミや咳でウイルスは空気中を舞って、拡散します。
厳密に言うと、クシャミや咳をした瞬間の1~2m以内にウイルスは多く存在します。
しかし、時間の経過、人や空気の流れに乗ってウイルスは他のところにも拡散します。
ウイルスは1点に集中して存在するのではく、全体にウイルスが広がります。
呼吸器系のウイルスは換気をすることでウイルスが拡散され、感染するリスクが軽減します。
ポイント
- 過度な清潔は意図しない細菌やウイルスに感染する可能性がある
- ウイルスは風の流れなどに乗り拡散するので、換気が重要になる
まとめ
今回はウイルスについて書きました。
ウイルスは生物であるというのは難しく、増殖するのに宿主細胞が必要です。
また、ウイルスの種類によって感染する細胞が決まっています。
ウイルスは複製する精度は低く、変異しやすいです。
外気中に存在するウイルスは弱く、アルコールなどの消毒で除去することができます。
しかし、過剰な消毒は細菌や他のウイルスに感染してしまう可能性もあります。
ある程度、外気中に存在する少量の細菌やウイルスが体の中に入ることで免疫ができます。
過剰な予防は時に意図しない細菌やウイルスに感染し、病気を発症してしまう可能性があります。
ウイルスについて書いたので、細菌についても書きます。